第12回フラーレン総合シンポジウム,平成9年1月,東京
フラーレンの生成機構の解明と関連して,レーザー蒸発クラスター源によって生成される炭素クラスターについてレフレクトロン型TOF質量分析装置で検討を進めてきたが(1),さらに金属内包フラーレンや巨大フラーレンについての取り扱いの為に,飛躍的に質量分解能を向上させられるFT-ICR (Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance)質量分析装置を開発している.基本的な設計は著者らの一人がRice大学のSmalley Groupで開発したもの(2)とほぼ同様であり,フラーレンを含めた各種原子クラスターを生成できる小型のレーザー蒸発・超音速膨張クラスター源からのクラスターイオンビームを6 Teslaの超電導磁石内のICRセルに直接導入する方式である.
Fig. 1に示すクラスター源は,以前のもの(1,
2)とほぼ同様であり,6インチの6方向UHVクロスにパルスバルブ,サンプル駆動機構,レーザー窓,ターボポンプ,スキマーを配置したものである.およそ50sのヘリウムガスパルスと同期して蒸発用レーザー(Nd:
YAG 2倍波)をサンプル上に約1mmに集光する.ノズル形状がフラーレンなどのクラスターの生成条件と密接に関係するため,ノズル部分の交換が容易にでき,かつ,サンプルの移動を簡単な機構で実現できるように改良をしている.
クラスター源で生成されたクラスターイオンビームは,ヘリウムガスに加速されて,Fig.
2のFT-ICR装置に直接導入されたのち,減速管のパルス電圧によって減速され,ICRセルに至る.場合によっては,スキマーの後でイオン化レーザーを照射することも可能である.ICRセルは円筒を縦に4分割した形状で,2枚の励起電極と2枚の検出電極がそれぞれ対向する配置である.励起電極には,PCで逆フーリエ変換した励起信号を高速任意波形発生ボードから入力し,検出電極の出力は差動アンプとデジタルオシロを介してPCに取り込む.ICRセルの前方には,一定電圧に設定するScreen
Doorとクラスタービーム入射時にパルス的に電圧を下げるFront
Door,後方にはBack
Door電極を配置し,それぞれ±12Vの範囲で設定できる.減速管で減速されたクラスターイオンのうち,Screen
Doorの電圧を乗り越えてBack
Doorの電圧で跳ね返されたものがセル内に保持される.アルゴンガスを加えて室温まで冷却した後に,一定の質量のクラスターを選別するSWIFT,レーザー照射,反応,質量分析などが可能である.クラスター源のパルスノズル,蒸発用レーザー,減速管,Front
Door電圧パルス,励起と検出は全てPCによって制御する.
現在のところ,FT-ICR装置自身の試験の為にクラスター源を取り付けずに直接固体試料をICRセル近傍に配置してレーザー蒸発させて,その質量分析を試みている.
最後に,本研究は文部省科学研究費(基盤研究A)による補助を受けた.
参考文献
(1) 丸山・林・木村・井上,第12回フラーレン総合シンポジウム講演要旨集,1996, p. 150.
(2) S. Maruyama, L. R. Anderson and R. E. Smalley, Rev. Sci. Instrum., 1990, 61-12, p. 3686.