極微の炭素筒「カーボンナノチューブ」多様な可能性 電子工学やバイオに
2001.09.26 東京夕刊 4頁 写有 (全1620字) 


 ◆東京テクノ・フォーラム21 丸山・東大大学院助教授講演 大量生産の方法課題
 太さが人間の髪の毛の数万分の一という極細の炭素チューブが、次世代を担う新素材として注目を集めている。その名は「カーボンナノチューブ」。先日、都内で開かれた「東京テクノ・フォーラム21」(代表=堀川吉則・読売新聞社専務取締役編集主幹)で、東京大大学院工学系研究科の丸山茂夫助教授が「IT・バイオ・エネルギー―究極の素材 カーボンナノチューブの可能性」をテーマに講演した。そのハイライトを紹介する。(中島達雄)
 カーボンナノチューブは、一九九一年にNECの飯島澄男主席研究員が発見した。カーボンは炭素、ナノは十億分の一、チューブは筒。つまり、炭素でできた直径約十億分の一メートルの筒のことだ。炭素原子が六角形の網目状に並んだシートを丸めて、ストローのように筒状にした構造を持つ。
 この極微な新素材を巡っては、電子工学や機械工学、化学、バイオ、エネルギーなど、あらゆる分野の研究者が応用の可能性を探っており、既に様々な特徴が明らかになりつつある。
 コンピューターなど電子工学の分野で注目されているのは、炭素シートの丸め方によって金属になったり半導体になったりする点。炭素の網目の列がチューブと並行になっている場合は金属、網目がらせん状に並ぶと半導体になりやすい。
 「半導体のナノチューブを集積回路の材料に使えば、現在のシリコンよりも小さくできる。チューブの途中で丸め方を変えて、片方を金属、もう片方を半導体にすれば、一方向にしか電流が流れないダイオードになる」
 丸山助教授が最も注目しているのは、熱の通しやすさ。やはり炭素原子でできたダイヤモンドは、銅の約五倍の熱伝導率を持つが、カーボンナノチューブはそれ以上に熱をよく通す可能性があるという。
 「最近のパソコンは、集積回路が出す熱を外に逃がす装置で大きさが決まる。ナノチューブで効率的に放熱すれば、熱対策という面でも電子機器の小型化に貢献できるはず」と話す。
 強度も魅力だ。軽くて軟らかいナノチューブは、引っ張っても曲げてもねじっても、簡単には切れないことが分かっている。
 バイオ技術との融合にも期待がかかる。遺伝子の本体であるDNA(デオキシリボ核酸)の太さは約二ナノ・メートル。ほぼ同じ太さのカーボンナノチューブを体内に入れ、センサーとして使えば、DNAの損傷部分を突き止めるなど、これまで不可能だった微細な計測ができるかも知れない。
 エネルギー分野では、燃料電池の燃料タンクとしての使用法に熱い視線が集まっている。燃料の水素を金属に吸着させて貯蔵する方法があるが、貯蔵量を増やそうとすると金属の量を増やさなければならず、どんどん重くなってしまう。その点、カーボンナノチューブは軽いので、水素の貯蔵量を増やしても自動車などに乗せやすそうだ。
 これについては、低温で高圧にしないと水素の貯蔵率が悪いというデータもあり、まだ未知数だという。
 果てしない未来が開けているように見えるカーボンナノチューブだが、最大の難点は、まだ完全な構造のチューブを工業的に大量生産できていないこと。いくつかの製造法が考案されているが、どうしても不純物が混ざり、その中からチューブだけを精製すると、せっかくのチューブ構造が壊れてしまったりするという。金属と半導体を作り分ける方法も分かっていない。
 丸山助教授は、「まだまだ赤ん坊の技術だが、夢のある応用の可能性がたくさん出てきている。材料としての使用に耐えられるよう、大量生産する方法の確立を急がなければならない」と講演を締めくくった。
 写真=細いひものように見える部分がカーボンナノチューブ。左の細い方は太さ約1ナノ・メートル、右の太い方は6、7本の束(丸山助教授提供の電子顕微鏡写真)
 写真=カーボンナノチューブの構造。網目状に並んだ炭素原子(白い丸)のシートが丸まった形になっている
 写真=丸山茂夫・東京大大学院助教授
読売新聞社