ノーベル化学賞学者リチャード・スモーリー氏――米国のナノテク戦略発案者(追想録)

2005/ 11/ 25日本経済新聞 夕刊p.5 584字

  米ライス大学のスモーリー教授は、ナノテクノロジー(超微細技術)のスター研究者だった。炭素原子がサッカーボールのように結合した分子「C60」を一九八五年に発見し、そのユニークな形状は世界を驚かせた。九六年には他の研究者とともにノーベル化学賞を受賞した。
 「C60」などの炭素分子「フラーレン」はナノテクを代表する材料となった。世界中の大学や企業がフラーレンを使った新素材の開発や医療分野への応用研究に取り組んでいる。
 もう一つのナノテク素材「カーボンナノチューブ(筒状炭素分子)」でも業績を上げた。スモーリー教授が考案した製造法で非常に良質なナノチューブが量産できるようになり、教授が設立したベンチャーの製品が国際的に流通している。
 「ナノテク」という言葉は二〇〇〇年一月、米クリントン大統領(当時)が国を挙げてナノテク研究を強力に推進する「国家ナノテク戦略」を発表して一躍、世界に広まった。スモーリー教授の下で研究に取り組んだまな弟子の丸山茂夫東京大学教授は「スモーリー教授はその戦略発案のいわば張本人に近い存在だった」と話す。
 忙しい研究生活の一方で、この七年間はリンパ腫という血液のがんと激しい闘いを繰り広げた。亡くなる前日まで病室で研究の話をしていたという。「ようやく先生と研究で戦えると思ったのに」と丸山教授はその早すぎる死を悼む。(10月28日没、62歳)