CNT・フラーレン/ナノ構造に挑む(中)巻き方・太さの制御が課題
2002.06.20 日刊工業新聞 5頁 (全1101字)


【性質を変える】
「金属と半導体、2種類できるのがおもしろい」。単層カーボンナノチューブ(CNT)の魅力について東京都立大学大学院理学研究科の阿知波洋次教授はこう語る。
単層CNTの筒の部分は、巻かれている状態によって金属になったり半導体になったりする。しかも半導体の場合は、単層CNTの筒の巻かれ方や太さ(直径)を制御することで半導体の性質を変えることができる。
巻かれ方や太さを自在に制御できればとくにデバイスへの応用で重要な意味を持つが、「どうやって選択的につくるかが難しいところ」(阿知波教授)という。巻かれ方については、さまざまな巻き具合の単層CNTが混じり合ってつくられているのが現状。太さの方は、ある程度の範囲で制御可能になっている。
【生成機構の解明】
都立大大学院理学研究科の片浦弘道助手らのグループは単層CNTの生成機構を調べるうちに直径を制御できるようになった。「直径1・2―1・5ナノメートルなら高純度のものができる」(片浦助手)という。
片浦助手らのグループでは単層CNTの中にフラーレンを詰めた「ピーポッド」の研究にも力を入れている。現在、炭素原子60個からなるフラーレン「C60」では充填率が約95%、「C70」なら充填率がほぼ100%に近いピーポッドがつくれる。
この研究を進める上でも単層CNTの太さの制御は不可欠だ。「C60を入れるなら(単層CNTの)直径が1・3ナノメートルでちょうどいい。ちょうどいいサイズにしないとフラーレンが入っていかない」(同)。
一方、生成機構の解明という根源的なテーマからみると、単層CNTとフラーレンとの関係が無視できない。アーク放電法とレーザー蒸発法では同じ装置で単層CNTとフラーレンのつくり分けが可能だ。触媒を使えばCNT、使わなければフラーレンができる。どういうプロセスなのか。
【生成を連続撮影】
都立大の阿知波教授らのグループはフラーレンの生成を連続撮影した。その結果、次のように推測できるという。「最初にキャップ状の『前駆体』ができて、触媒があるとその上に前駆体が付着して成長し、ナノチューブになる。触媒がないと前駆体が閉じてフラーレンになる」(阿知波教授)。
東京大学大学院工学系研究科の丸山茂夫助教授らの研究グループは、触媒を使うとなぜ単層CNTができるかをシミュレーションしている。
触媒がニッケルの場合は触媒が邪魔になり、閉じた形のフラーレンにはなれないが、ランタンでは中に収まって金属内包フラーレンができるという。丸山助教授は「フラーレン同士がぶつかっても反応は起きない。閉じていないもの同士がぶつかると次の反応が起こる」とみている。