CNT・フラーレン/ナノ構造に挑む(上)単層CNT量産に見通し
2002.06.19 日刊工業新聞 4頁 (全1100字) 


特異なナノ構造をした炭素の新物質、カーボンナノチューブ(CNT)とフラーレン。これまでも数多くの研究者から熱い視線を浴び、基礎から産業応用まで幅広く研究されてきた。これら新物質の研究が現在、どこまで進み、今後どこへ向かおうとしているかを探った。
【サンプル供給】
「日本の製造業の製品開発力を生かしてほしい」。そんな思いから、産業技術総合研究所新炭素系材料開発研究センター一次元ナノ構造チームは昨年末までの1年半、多層CNTをサンプル供給してきた。湯村守雄チーム長は「用途別では複合樹脂が多かった」と振り返る。
サンプル供給できるのは、多層CNTを化学気相成長(CVD)法で大量につくる独自の技術を開発済みだからだ。「逆ミセル法」と呼ばれ、界面活性剤を使ってナノメートルサイズの水のかたまりをつくり、このかたまりの中で触媒金属を還元する。そして還元されたものと炭化水素を反応器の中に一緒に滴下する。この方法で1台の装置(昭和電工製)で1日に5キログラムの多層CNTの生産が可能としている。
【1グラム2万円に】
多層CNTの量産について湯村チーム長は「コストが課題」と指摘する。2年前は1グラム5万円だったが、今は1グラム2万―3万円という。
ずいぶん安くなったが、「1キログラムでも同じ値段にならないと工業的には使われない」(湯村チーム長)。
現在の研究テーマの一つは、多層CNTで培った技術を触媒を変えて単層CNTづくりに生かすこと。研究レベルでは開発済みで、量産プラントで使えるかどうかこれから確かめるとしている。「基礎研究は単層ナノチューブの方に向いている」(同)。
【CVD法に注目】
CNTを大量に効率よくつくる技術は産業への応用の面から不可欠だ。CNTのつくり方にはアーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法などが知られる。うちCVD法は大量かつ安価に単層CNTがつくれる可能性があり、注目されている。
単層CNTはまだ、量産技術が確立されたとはいえない。そんな中、東京大学大学院工学系研究科の丸山茂夫助教授らの研究グループは、アルコールを使って高純度な単層CNTを生成する手法を開発した。触媒CVD法を用いるが、生成条件が600―700度Cと従来より低温で済む。「単層ナノチューブの大量生産に見通しがついたことを意味する」と丸山助教授は説明する。
丸山助教授らのグループが開発した手法では(1)単層CNTに触媒がついて取れない(2)生成条件が安全、コストの両面で実用化のネックになる―といった従来の触媒CVD法の課題を克服した。「シリコンなどのデバイスの上に(単層CNTを)生やすこともできる」(丸山助教授)という。