カーボンナノチューブ、長さ制御できる合成技術――東大、光センサーで観察

2004/ 11/ 26日経産業新聞p.6 966字

 東京大学の丸山茂夫教授らの研究グループはナノテクノロジー(超微細技術)の代表素材であるカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)の長さを制御して合成する基本技術を開発した。従来は特定の長さに作るのが難しかった。光通信素子や電界放出型ディスプレー(FED)など応用製品の品質安定やコスト削減につながる。  新しい製造法は、光センサーでナノチューブの長さを観察しながら合成し、目的の長さに達したら合成炉から取り出して反応を止める仕組み。  実験で長さ約六マイクロ(マイクロは百万分の一)メートルのナノチューブを基板上に多数並べて立てて作製することができた。これは光通信素子向けのタイプだが、消費電力が少ない薄型表示素子であるFED向けの一マイクロメートルや二マイクロメートルのタイプなども可能。長さの精度は約〇・一マイクロメートルという。  従来の製造法では条件を同じにしたようでも実際には水分などのわずかな違いで、長さが一マイクロ―六マイクロメートルの間で毎回変わるなどしていた。このため、合成後に電子顕微鏡などで調べ、目的の長さを選ぶ必要があった。  ナノチューブの直径は金属触媒の成分などの調整で制御する技術の開発が進んでいるが、長さ制御の研究は遅れていたという。  新技術を利用すれば、最初から目的の長さを安定して製造できる。製造時間や材料の無駄も防げるのでコストの低減にもつながる見込み。  合成中の長さ観測はまずナノチューブを作る基板を光が通る石英ガラス製とし、合成するのとは反対側から青色レーザー光を照射。ガラスからナノチューブを経て通過してくる光をセンサーで計測する。ナノチューブが合成されて長くなるほど、通り抜ける光が弱くなるので、計測値から長さが分かる。  
▼カーボンナノチューブ 炭素でできた直径数ナノ(ナノは十億分の一)から数十ナノメートルのチューブ状の微小材料。一般の炭素材料にはない様々な特徴を発揮する。  例えば、通常は光を吸収するが強い光を当てると瞬間的に光を吸収しなくなる。これを利用すれば光を制御する超高速光通信素子ができる。また、細長い先端部を電子放出源として使えば消費電力が少ない大型の薄型表示装置が実現するといわれている。
【図・写真】ガラス基板上にじゅうたんの毛のように並んで立つ約6マイクロメートルのナノチューブ