R&D再構築キーパーソンに聞く(6)東レ小林弘明氏――産学連携共同研究
2004/ 01/ 13日経産業新聞p.10 1355字


テーマ別、成果早く東レ専務取締役小林弘明氏 ――三月で、二〇〇二年に始まった経営計画の最初の二年間を終える。この間の研究改革の最大の成果は。 「第一には社外との研究開発連携が進んだことが挙げられる。自前主義からの脱却を掲げているが、二〇〇〇年度に七十―八十件だった社外との共同研究が、二〇〇二年度には百五十件強に増えた。国立大学の法人化を控え、産学連携がやりやすくなったことなど環境面での追い風もあった。名古屋大学の篠原久典教授や東京大学の丸山茂夫・助教授と共同研究しているカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)などは、社内だけだったらこんなに早く成果が出なかっただろう」 「社内的にも各研究所の技術が融合し始めた。自分の所属していない研究所での成果を評価することで、研究所を横断して取り組むプロジェクトが従来の一、二テーマから七テーマ程度に増えた。研究プロジェクトの規模も大きくなりスピードも増した」 ――大学と包括的な提携契約を結ばないのか。 「包括提携はしない方針だ。得意とする研究分野の特徴は各大学ごとに異なる。産学連携で研究に取り組む場合、包括提携している大学の研究者ではなく、その分野で一番有力な研究者と組むことが重要だ。当社に欠けている技術を埋めるために連携するのであって、根がない研究分野に枝を伸ばすことはない」 「研究テーマごとに連携する場合、どの大学で何をやっているかという情報収集作業が必要になる。研究者が技術情報などを容易に検索できるようなシステムを開発中だ」 ――昨年五月に開設した先端融合研究所(神奈川県鎌倉市)の効果は。 「社内外にバイオテクノジーやナノテクノロジー(超微細技術)の研究を本気で手掛けるということを明確にできた。研究者も同分野に集中して取り組むことができるようになったほか、経験者を中途採用したことで予想以上に研究が進んだ。二―三年以内には成果を活用した商品が出ると期待している」 「三―四年以内に研究者を百人程度に倍増させる。そのうち三割は社外から採用したい。経験者の採用は社内の研究の活性化につながる。バイオやナノテク分野以外でも戦略的に重要な研究分野では、中途採用を増やしていきたい」 ――中国で研究拠点を拡充する計画について聞きたい。 「国際競争で勝ち抜くには材料の革新と同時に、世界各地で研究・開発拠点を充実させることも重要だ。南通市にある東麗繊維研究所は上海にも拠点を設置し、人員も二〇〇八年度までに現在の十倍の五百人規模の体制にする」 「日本での研究テーマを部分的に移し、繊維だけでなく高分子や水処理技術の研究も手掛ける。中国の大学などとも連携する。拡大する中国市場を狙った研究開発を進める考えだ」視点「研究改革の実」、成長へ不可欠 東レは、二〇〇四年度の連結営業利益を五百億円以上にする目標を一年前倒しで今年度に達成する見込みだ。二〇〇一年度に落ち込んだ業績がここまで急回復したのは、事業構造や営業体制の改革などがけん引した側面が強い。 過去の成長は人工皮革や炭素繊維、中空糸膜やインターフェロン製剤などが大きな役割を果たしてきた。「繊維の東レ」から「先端材料の東レ」に転換し、再び成長軌道に乗せるには、研究改革の成果が欠かせないだろう。(岩野孝祐)