東大が新手法、ナノチューブ、光ファイバー先端で合成――超高速通信に道

2003/08/28 日経産業新聞 P.9 700字


 東京大学の丸山茂夫助教授と山下真司助教授らは、光ファイバーの先端にナノチューブ(筒状炭素分子)を直接合成する手法を開発した。ナノチューブが瞬間的に光を通す特殊な現象を利用し、信号送信中に発生する雑音を除去するフィルターなどに応用できるという。現在の百倍の一テラ(テラは一兆)ビット級の超高速通信の実現につながる。
 丸山助教授が開発した手法はアルコールを原料に単層のナノチューブを合成する。セ氏約六百五十度の低温で単層ナノチューブを合成できるので、ガラス製光ファイバーを傷める心配がないという。
 単層ナノチューブの合成はまず、金属触媒を溶かした液にファイバーを浸す。溶液から引き上げると、直径一・五ナノ(ナノは十億分の一)メートルほどの触媒がファイバー先端を均一に覆う。アルコールを原料に合成すると、ファイバーの先端が無数の単層ナノチューブで膜のように覆われていた。先端部分を覆った単層ナノチューブの厚みは約百ナノメートル。
 単層ナノチューブは光通信に使う赤外光を通常は吸収するが、一定量吸収すると、瞬間的に光が通る材料に変わる性質を持つ。再び光を吸収する材料に戻る時間も一ピコ(ピコは一兆分の一)秒と非常に短い。
 単層ナノチューブの光の性質を使うと、通信途中で発生した異常な信号を除去するフィルターに使えるという。単層ナノチューブで光通信用フィルターを作る手法は従来、ガラス板の表面にナノチューブ溶液を付けて乾燥する試みがある。丸山助教授らの新手法は簡単なうえ、均質な膜状になって表面を覆うために通信に適しているという。


【図・写真】光ファイバー先端を覆うナノチューブの電子顕微鏡写真(白い線状部分)