カーボンナノチューブ――量産へ用途開拓進む(技術革新の潮流)

2003/10/09 日経産業新聞 P.15 1078字


 カーボンナノチューブ(筒状炭素分子)やフラーレン(球状炭素分子)などのナノカーボン材料の量産体制が国内で急速に整ってきた。特にナノチューブは多彩な物理的性質から平面表示装置に使う電子放出素子や、機械的強度や導電性を高める複合材、添加剤などの用途が期待されている。
 三井物産の子会社、カーボン・ナノテク・リサーチ・インスティチュート(東京・中央)は東京都昭島市に年間百二十トン規模の生産能力を持つ多層のナノチューブ生産プラントを完成した。化学的気相成長法(CVD)をベースに独自開発したより細いチューブを製造する技術を利用している。比較的低コストで大量生産できるという性質を生かして、プラスチックやゴム、セラミックスと混ぜた複合材、バルク材を狙っている。
 東京大学の丸山茂夫助教授と共同で、触媒を使用した方法で結晶欠陥の少ない単層ナノチューブの製造法も開発している。アルコール分子に含まれる酸素原子が反応中の欠陥ができるのを抑制するので高品質なナノチューブを製造できるという。
 一方、GSIクレオスは、底の開いたコップを重ねた積層構造の多層型ナノチューブ「カルベール」を製造販売している。内部が中空で、外側の直径は八十―百ナノ(ナノは十億分の一)メートル。金属触媒を核として炭化水素を気相成長させて製造する。
 ユニークな構造から周辺や内部にナノ粒子が付きやすい。複合材や電子放出素子などへの実用化を目指している。触媒担持体は遠藤守信信州大学教授と共同開発した。カルベールの構造が通常のカーボンナノファイバーに比べて白金などの金属粒子の担持に向いているのを利用した。
 触媒金属をファイバーの内部や外部の表面に担持できる。その量や触媒粒子間も調整可能。燃料電池の電極や水素製造、ガスセンサーなどへの応用が期待されている。
 本荘ケミカル(大阪市)は米社の技術を導入し二層構造のナノチューブを製造している。アーク放電法で作るため量産には向かないが結晶性が良い。単層や三層以上の多層構造のナノチューブより放電開始電圧が低く電子放出特性も良好というデータも得ており、電子放出素子への実用化を目指している。
 また住友商事は米カーボン・ナノテクノロジー社(テキサス州)が製造する単層カーボンナノチューブを販売している。
 このように、多層ナノチューブは低コストで大量に供給する複合材への利用、単層と二層のナノチューブは少量ですむ電子放出材料や触媒担体といったように用途開発が進んでいる。
(日経産業消費研究所
主席研究員 江口正人)
【図・写真】白金微粒子のカルベール表面への担持