三井物産系のCNRIと東大,単層カーボンナノチューブを高品質化する新製法を開発
日経ナノテクノロジー [2003/02/25]


 三井物産の100%子会社であるカーボン・ナノテク・リサーチ・インスティチュート(CNRI,本社東京)は,東京大学大学院工学系研究科助教授の丸山茂夫氏と共同で,単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を高品質化する新製法を開発し,サンプル製造を開始する。丸山氏の開発したACCVD(Alcohol Catalytic Chemical Vapor Deposition)法を用いることで,非晶質カーボンや多層カーボンナノチューブ(MWCNT)といった不純物がほとんど生成することなく,欠陥のない高品質のSWCNT(写真)を選択的に生成できる。1g当たり2000円以下の製造コストを目標に,年産1tレベルの量産化も検討しているという。
 丸山氏の開発したACCVD法は,触媒を利用した化学気相成長(CVD)法の一種で,アルコールを原料に,固体触媒上の気相反応によってSWCNTを生成する。従来は,原料にアセチレンなどが使われていたが,非晶質カーボンやMWCNTが同時に生成してしまうという難点があった。それに対し,ACCVD法では,原料のアルコール分子に含まれる酸素原子が,非晶質カーボンやMWCNTの生成を抑制し,SWCNTに欠陥が生じることも抑えることから,選択的に高品質なSWCNTを製造できると考えられている。また,800℃以下と比較的低い温度で,しかも大気圧下もしくは減圧下の簡単な設備で製造できるので,スケールアップが容易で,製造コストを低減しやすく,量産に向くと考えられる。
 この新製法と同時に,CNRIは,SWCNTを電子デバイスに応用する研究も進めており,触媒金属を目的とする固体の上に固定する方法の開発や,反応条件の改良などによって,SWCNTの性質を制御する手法の開発にめどをつけているという。同社と同じく三井物産の100%子会社で,デバイス関連の研究開発会社であるデバイス・ナノテク・リサーチ・インスティチュート(DNRI,本社東京,2003年1月16日付の記事参照)と,知的財産戦略会社であるアイ・エヌ・アール・アイ(INRI,本社東京,2002年10月7日付の記事参照)の2社と共同で,固体触媒上に成長したサンプルを利用する応用開発の研究会を発足し,大学や公的研究機関などの参加を募る計画もある。(日経ナノテクノロジー 桜井敬三)

【写真】ACCVD法で合成した単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の透過電子顕微鏡(TEM)写真