単層CNTの垂直配向膜、実は一束5本前後−東大など発見

2007.02.07 日刊工業新聞 1頁 (全855字)

単層カーボンナノチューブ(CNT)の垂直配向膜(用語参照)が5本前後の単層CNTでひとかたまりを構成していることを東京大学の丸山茂夫教授、ドイツのライプニッツ固体・材料研究所のトーマス・ピヒラー研究員らが透過型電子顕微鏡(TEM)による観察で発見した。従来はひとかたまりが50−60本単位と考えられ、光学素子や複合材料への応用の足かせだった。意外にも最初からバラバラだったことがわかったことで、これらの応用が実用化に大きく近づきそうだ。
単層CNTの垂直配向膜はこれまで走査型電子顕微鏡(SEM)で横から破断面を観察してきたが、内部の詳しい構造はわからず、単層CNTが50−60本単位でひとかたまりになっていると考えられていた。
今回、アルコールを原料に使う「アルコール触媒化学気相成長(CVD)法」で厚さ2マイクロ−7マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の単層CNTの垂直配向膜をつくった。この膜を網の上に載せ、網の穴越しに膜を上からTEMで観察したところ、膜の内部の断層像が初めて見えた。5−6本の単層CNTで一束になったものが多く、1本単独の単層CNTも観察できた。
CNTは熱を伝えやすい、機械的な強度が高い、電気をよく通すなど多くの優れた性質がある。だがこれらの性質は50−60本でかたまっていると損なわれる。光の吸収エネルギーがずれて光学的な性質も変わる。かたまりをバラバラにする技術も確立されておらず、光学素子や複合材料に応用する際、かたまりが大きな課題だった。
しかし単層CNT5本ぐらいの束なら、性質は1本ずつバラバラの状態に近い。今回の発見で実用化への重要な課題が解消されたといえそうだ。
成果は名古屋で開かれる「フラーレン・ナノチューブ総合シンポジウム」で13日に発表する。

【用語】単層CNTの垂直配向膜=多くの単層CNTを膜の厚さの方向(基板の垂直方向)に一律に成長させた膜。CNTはグラファイトのシートを筒状に丸めた細長い形をしており、1枚のシートを丸めた構造のCNTを単層CNTと呼ぶ。
日刊工業新聞社


観察したTEM像.垂直に上を向け,5−6本前後で一束になった単層CNTが黒く見える.