単層CNT、生成は“頭”から−東大がシミュレーションで確認
2004.01.21 日刊工業新聞 29頁 (全785字)

 

単層カーボンナノチューブ(CNT)は最初、先端にあたるキャップの部分から生成され、反対に筒状の部分から生成する可能性は極めて低いことを東京大学の丸山茂夫助教授らが実験とシミュレーションで突きとめた。CNT研究の焦点の一つである単層CNTの筒の巻かれ方を制御するうえで、「キャップ部分に着目すべきだ」という重要な指針を得たことになる。

単層CNTは筒がどの向きで巻かれているかによって電気的性質が変わる。このため小型で高集積な電界効果トランジスタ(FET)や大容量で高速な光通信用スイッチなどを単層CNTを用いて実現するのに、筒の巻かれ方の制御は不可欠とされ、技術の確立が待たれている。

直径0・75ナノメートルの単層CNTは理論上、2種類の巻かれ方が知られる。しかしアルコールを原料にするアルコール触媒化学気相成長(CVD)法で、この直径の単層CNTを実際に生成し、近赤外蛍光分光法と呼ばれる手法で調べた結果、ほとんどはこのうちの1種類だけだった。

1種類に偏った理由が最初は分からなかったが、原子1個ずつの動きを計算する分子動力学法で単層CNTの生成をシミュレーションしたところ(1)炭素原子がニッケル触媒に次々にぶつかり、溶けるように入り込む(2)次第に飽和状態となり、炭素原子があふれるように押し出されてCNTのキャップができる(3)単層CNTが生成される―というプロセスを示した。

そこでキャップに着目し、別のシミュレーションで先の2種類の安定性を計算した結果、筒の安定性は同じだが、キャップについては実際にたくさん生成された種類の方が、はるかに安定していることが分かった。

これらの実験とシミュレーションから「もしキャップに関係なく筒から先にできるなら、一方の種類に偏って生成されることはない、と考えられる」(丸山助教授)とし、「まずキャップから生成される」と結論づけた。

日刊工業新聞社