東大、フラーレンで単層CNTの直径制御も−"既製品の頭"使い筒成長
2003.02.27 日刊工業新聞 5頁 (全1069字)


東京大学大学院工学系研究科の丸山茂夫助教授と宮内雄平大学院生らが成功したフラーレン「C60」からの単層カーボンナノチューブ(CNT)生成が注目されたが、CNTの"親せき"であるフラーレンを用いる点がポイントだ。フラーレンを使うことで単層CNTの直径制御を実現できる可能性がある。実際、生成した単層CNTの直径のバラつきが0・4ナノメートルと小さかったことから、直径制御の実現に向けて新たな突破口が開けたともいえそうだ。
「最初から"頭"を用意しておけば、狙い通りのものがつくれるだろうと考えた」。丸山助教授はこう説明する。
C60は炭素原子60個からなるサッカーボール型の分子。一方、単層CNTの両端はちょうど一つのフラーレンを半分に割った形をしている。つまりフラーレンの半分をそのままCNTの端部にし、ここからCNTの筒の部分を成長させれば筒の部分を狙い通りの太さにできるという着想だ。
またフラーレンにはC60のほか炭素原子70個からなるC70などさまざまな種類がある。このため多種多様な太さや形の単層CNTを自在につくれる可能性も開けている。
「ナノチューブの直径やカイラリティー(筒の部分の巻かれ方)は"頭"がどう決まるかで違ってくる」(丸山助教授)ため、フラーレンという"既製品の頭"を用いる着想は極めて合理的に思える。今後、さらに直径制御実現に近づくには、金属触媒の大きさの均一化や生成メカニズムのさらなる解明などが必要としている。
では直径制御が実現するとどんな利点があるのか。キーワードはバンドギャップだ。
温度の上昇や特定の電圧、光の照射などの刺激はそれぞれ、移動できない電子を移動できる電子に"変身"させる。バンドギャップはその際の障害の大きさのようなものでバンドギャップが狭いと絶縁体から導体になりやすく、広いと導体になりにくい。単層CNTの直径が太いとバンドギャップが狭く、細いとバンドギャップは広くなる。
将来、単層CNTを用いた極小集積回路が期待されているが、実用レベルでは単層CNTが100万本単位という膨大な量を要する。「バンドギャップが広いものや狭いものがバラバラになっていたのでは集積回路として機能しない」(同)。従って極小集積回路の実現には単層CNTの直径を任意にそろえられることが前提条件となる。
直径制御が実現すれば光ファイバーの中継に使われる光増幅素子に単層CNTを用いることも可能になる。シリコンを用いた既存の光増幅素子と違って不純物が不要なため、直径1ナノメートル以下の微小な光増幅素子ができるとしている。
日刊工業新聞社