量産技術 高純度で細い製品を(プロジェクト ナノチューブ:中)
2004.01.14 東京朝刊 21頁 科学医療科学 写図有 (全1064字) 


 カーボンナノチューブ(CNT)の産業化をめざす競争が量産技術でも激しくなっている。
 昭和電工は川崎市の工場で年30トン余りのCNTを生産している。リチウムイオン2次電池の電極の耐久性や導電性を高める添加材に使われ、携帯電話やパソコンの電池の寿命が大幅に延びた。「CNTで性能向上に貢献ができた」と同社の鈴木英二・ファインカーボン部長は自負する。
 ただし、このCNTは直径が150ナノメートル(ナノは10億分の1)前後もある多層構造だ。1層のCNTが1ナノほどなのに比べ、ずっと太い。強度や導電性、熱伝導性などは細いものほど勝る傾向にある。昭和電工は直径80ナノや20ナノの製法の研究にも目を向けている。
 量産技術として最も有力なのが、原料の炭化水素と触媒の金属を高温にした反応炉に流す気相法だ。信州大の遠藤守信教授が70年代から続けている研究成果などを生かし、太いものも細いものも作ることができる。
 三井物産の子会社CNRIは直径20ナノのCNT生産に力を入れる。東京都昭島市に年間120トン生産の設備を造った。樹脂に練り込んで強度などを高める材料の供給が目標だ。
 「新しい物質なので、いろいろな企業と相談しながら用途を広げたい」と三井物産ナノテク事業室の加藤誠さん。ただし、「もっと細いCNTは電子部品などに使える夢の素材になる可能性はあるが、もう少し研究開発が必要だろう」とみる。
 CNTの量産工程で問題になるのは不純物がまざりやすいことだ。触媒金属が残ったり、炭素がススとしてまざったりする。細いものになるほど純度を高める工夫が必要になる。
 産業機器メーカーの日機装は80年代から気相法の研究を続けてきた。90年代後半になって細いCNTを連続的に作る新技術を開発し、いまも改良を重ねている。同社開発センターの八名(やな)純三参与は「1〜30ナノくらいの細いCNTをきれいに作れるようになってきた。製法としては完成に近づいている」と話す。
 原料を炭化水素ではなくアルコールにすると、単層CNTが高い純度で生成されることを、東京大の丸山茂夫・助教授らが02年に見つけ、注目された。現在、東レなどと協力し、量産に向けて研究を進めている。「生成される炭素化合物の9割以上を単層CNTにできる」と東レの尾関雄治・化成品研究所研究員はいう。
 遠藤さんは次の課題をこう話す。「細いCNTのきれいな合成にも可能性は開けてきた。作り出すCNTを金属にするか半導体にするか、これからは構造の制御に焦点が移っていく」
 【写真説明】
 直径約20ナノの多層CNT=日機装提供
朝日新聞社